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大阪地方裁判所 平成3年(行ウ)17号 判決

大阪市城東区鴫野東三-二九-五

原告(選定当事者)

濱田禮二郎

同所

右選定者

濱田愛子

池田市五月丘三-四-一三

右選定者

濱田仁三郎

大阪市城東区中央二-一三-二三

被告

城東税務署長 末原慶清

東京都千代田区霞ケ関一丁目一番一号

被告

右代表者法務大臣

田原隆

右両名指定代理人

杉浦三智夫

森並勇

加賀八郎

岡田浩明

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

一  控訴費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告城東税務署長が原告らの相続税につき平成元年二月七日付けでした更正処分のうち、相続税の総額を三〇七万二〇〇〇円として計算した額を越える部分を取り消す。

二  被告国は原告に対し、一五一二万〇九〇〇円及びこれに対する昭和六二年一〇月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件までの経過

次の事実は争いがない。

1  昭和六二年四月二〇日、訴外濱田彌一(以下「彌一」という。)が死亡した。

彌一の親族関係は、別紙親族関係図のとおりであり、原告、選定者濱田愛子及び濱田仁三郎の三名が、右彌一の財産を相続した(以下「本件相続」という。)。

右三名の法定相続分は各三分の一である。

2  本件相続の相続税についての課税及び不服申立ての経緯は別表一記載のとおりである。

二  本件

本件は、原告らが、別表一「更正(第2次)」欄記載の更正処分(以下「現処分」という。)には、相続財産の土地の評価をを誤り、その結果、相続税の総額を誤った違法があるとて、原処分のうち、相続税の総額を原告らの更正の請求(第2次)に係る相続税の総額である三〇〇七万二〇〇〇円として計算した額を越える部分の取消を求めるとともに、不当利得返還請求権に基づき、右原告らの更正の請求にかかる相続税の総額と原告らが審査請求において主張した相続税の総額一四九五万一一〇〇円との差額一五一二万〇九〇〇円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める事案である。

第三課税処分取消請求について

一  主張及び争点

1  被告城東税務署長の主張

被告城東税務署長は、本件相続の相続税額につき、次のとおり主張して、右相続税額の範囲内でなされた原処分は適法であると主張する。

(一) 課税価格

(1) 相続財産及びその価額

本件相続の相続財産の種類例の価額は、別表二の被告主張額欄〈1〉ないし〈4〉記載のとおりであり、その内訳は下記のとおりである。

なお、相続財産の価額は、法定された特定資産(相続税法二三条ないし二六条に規定する財産)を除き、財産の取得のときにおける時価によるものとされており(相続税法二二条)、その具体的な評価は、国税庁長官が各国税局長にあて通達した「相続税財産評価に関する基本通達」(昭和三九年四月二五日付け直資五六・直審(資)一七以下、「評価基本通達」という。)及び毎年各国税局長が定めた相続税財産評価基準(以下「評価基準」という。)に基づき評価するのが相当であるから、以下も、これら(ただし、評価基準については、本件相続開始時の属する昭和六二年分の、後記宅地等の所在する地域に適用される大阪国税局の評価基準)に基づき評価したものである。

〈1〉 宅地等

本件相続財産のうち、宅地及び宅地上に存する権利(以下「宅地等」という。)の価額は別表四記載のとおりである。

なお、居住の用に供されている宅地等の価額については、租税特別措置法(昭和六三年法律一〇九号による改正前のもの)六九条の三により、二〇〇平方メートルまでの部分について、一〇〇分の三〇を減額するものとされているところ、本件においては、別表四順号9の宅地について同表「措置法69条の3による控除額」欄記載のとおり右の減額を行うこととなる。

〈2〉 家屋

本件相続財産のうち、家屋(大阪市城東区鴫野東三丁目一六六番、家屋番号一〇五番)の価額は、二万六〇〇〇円である。

〈3〉 有価証券

本件相続財産のうち、有価証券の価額は別表五記載のとおりである。

〈4〉 預貯金

本件相続財産のうち、預貯金の価額は、別表六記載のとおりである。

(2) 債務等

課税価格に算入すべき価額は、相続財産の価額から、被相続人の債務で相続開始の際現存するもの(公租公課を含む。)及び被相続人に係る葬式費用を控除した金額によるものとされている(相続税法一三条)ところ、本件相続の課税価格の算出において、相続財産の価額から控除すべき金額は、彌一に係る葬式費用一三〇万七八四一円である。

(3) 贈与加算

相続人が、当該相続の開始前三年以内に当該相続に係る被相続人から贈与により財産を取得したことがある場合には、その者については、当該贈与により取得した財産の価額を相続税の課税価格に加算した価額を相続税の課税価格とみなすこと(相続税法一九条)とされているところ、選定者濱田愛子は、本件相続開始前三年以内に、彌一から別表七記載のとおりの合計四八二万七三五一円の贈与を受けた。

(4) 課税価格

前記(1)記載の各相続財産の価額の合計は別表二〈5〉欄の被告主張額欄記載のとおりであり、これから前記(2)記載の債務等を控除した差引純資産は、同表〈7〉欄の被告主張額欄記載のとおりである。

そして、前記のとおり原告らの法定相続分は各三分の一となるところ、本件相続においてはいまだ遺産分割が行われていないので、相続税法五五条に基づき、原告らが法定相続分の割合で右差引純資産の価額の相続財産を取得したものとし、なお、選定者濱田愛子については、さらに前記(3)記載の受贈価額を加算して、原告らの課税価格を計算すると、別表三〈1〉欄記載のとおりになる。

(二) 相続税額

(1) 遺産に係る基礎控除

相続税の総額を計算する場合においては、相続税の課税価格の合計額から、二〇〇〇万円と、四〇〇万円に当該相続人の数を乗じて得た金額との合計額(以下「遺産に係る基礎控除額」という。)を控除することとされている(相続税法一五条(昭和六三年法律一〇九号による改正前のもの))ところ、本件相続における遺産に係る基礎控除額は別表三〈3〉欄記載のとおり三二〇〇万円となる。

(2) 相続税の総額

相続税額の総額は、課税価格の合計額から遺産に係る基礎控除額を控除した金額を法定相続人が法定相続分に応じて取得した場合における各取得金額に、相続税法(相続税法一六条(昭和六三年法律一〇九号による改正前のもの))で定めた率を乗じて計算した金額を合計した金額となるところ、本件相続における相続税の総額は、別表三〈8〉欄記載のとおり九三五三万五五〇〇円となる。

(3) 相続税額

各相続人の相続税額は、相続税の総額に、各相続人に係る課税価格がすべての相続人に係る課価格の合計額のうちに占める割合を乗じて算出した金額とされている(相続税法一七条)ところ、本件相続における原告らの相続税額は、それぞれ別表三〈9〉欄記載の金額となる。

2  原告の反論(争点)

原告は、前記1(一)(「課税価格」)(1)(「相続財産及びその価額」)〈1〉(「宅地等」)記載の被告城東税務署長の主張のうち、次の宅地等に関する主張について、以下のとおり反論する。

(一) 別表四順号1ないし、4、8、12、14、15及び17ないし20の宅地等について

標記各宅地等(以下「本件貸宅地」という。)は貸地であるところ、貸地の所有権は市場性及び換金性に欠けており、賃貸借の終了も容易に望めないから、本件貸宅地の価額を自用地の四〇パーセント相当額と評価するのは不合理である。

右価額は、収益還元方式により、本件貸宅地の昭和六二年一月現在の地代平均価額三・三平方メートル当たり四九二円、税引後の地代平均価額同三七〇円、自用地としての実勢価額同約一五〇万円、土地の利回り年率六パーセントとして、左記算式により自用地の五パーセント相当額と評価すべきである。

(算式) 370×12か月÷0.06=74,000円

74,000円÷1,500,000円=0.04933

(二) 同表順号21の宅地について

標記宅地(以下「順号21の宅地」という。)は下水処理場に隣接する土地であるところ、下水処理場等の嫌悪施設の存在は、付近住民に不快感を与えるものであるため、その周辺の不動産の価値は著しく減殺されるから、右宅地の相続税評価額もこれを考慮して減殺されるべきであり、右宅地の価額は算出の基礎となる路線価の二分の一相当の価額により算出されるべきである。

(三) 同表順号7及び順号12の宅地について

標記各宅地に挟まれた道路(以下「本件道路」という。)は、特定少数の者にしか利用されないし、評価基本通達14(3)にも該当せず、路線価を設定すべき道路に該当しないのであるから、右各土地の評額を計算する際、側方路線影響加算をするべきではない。

(四) 同表順号9の宅地のうち、濱田きく名義の家屋(鴫野東三丁目一六六番、家屋番号二九〇五番一)の敷地部分について

標記家屋(以下「きく家屋」という。)敷地部分は、相続開始前、きく家屋が新築された際に、彌一から濱田きく(以下「きく」という。)に贈与されているから、本件相続に係る相続財産ではない。

(五) 同土地のうち、原告名義の家屋(鴫野東三丁目一六六番、家屋番号二九〇五番)の敷地部分について

標記家屋(以下「原告家屋」という。)敷地部分は、昭和三八年ころ、彌一が原告らのため借地権を設定しているから、自用地として評価すべきではない。

二  判断

1  被告城東税務署長の前記一2記載の各争点を除く、前記一-(一)(「課税価格」)(1)ないし(3)(「相続財産及びその価額」、「債務等」及び「贈与加算」)記載の主張は、乙第二、第三号証、第四号証の一、二、第五号証の一ないし三、第六号証の一、二、第七号証の一ないし五、第八号証の一ないし八、第九ないし第一九号証、第二〇号証の一ないし四、第二一ないし第三五号証、原告本人尋問の結果により、いずれもこれを相当と認めることができる。

2  争点に対する判断は以下のとおりである。

(一) 前記一2(一)記載の争点について

乙第二号証によれば、評価基本通達25には、貸宅地の評価は、宅地の自用地としての価額から、借地権の価額を控除した金額によって評価する旨定められており、右借地権の価額については、同通達27に、その借地権の目的となっている宅地の自用地としての価額に、国税局長の定める割合を乗じて計算した金額によって評価するものと定められていること、乙第四号証の一及び二によれば、右国税局長の定める本件貸宅地の借地権割合はいずれも六〇パーセントであることが認められる。

そして、右借地権割合は、乙第二号証によれば、借地権の売買実例価額、精通者意見価格、地代の額等を基として評定されるものであることが認められるから、実勢価額を反映しているものと考えられるし、また、貸宅地の価額を、自用地としての価額から借地権の価額を控除した金額によって算出することにも、合理性が認められるから、被告城東税務署長主張のとおり、本件貸宅地(底地)の価額を自用地の四〇パーセント相当額と評価することには妥当性があるものといえる。

しかも、右評価は、次のとおり、本件貸宅地の一部について行われた底地権売買の実例に比すれば、極めて低額なものということができる。すなわち、乙第一六号証、第一八号証、第三七号証によれば、昭和六三年四月一二日本件貸宅地のうち別表四順号20の貸宅地及び順号17の貸私道(ただし、持分七万六六五八分の一万九九七四。以下同じ。)は、同地の借地権者である訴外天理教網城分教会に、価額合計一七九五万円で売却されていることが認められる。そして、乙第四号証一及び二によれば、右各土地は普通住宅地区・家内工業地区にあることが認められるところ、大阪市の住宅地の平均地価上昇率は、乙第三八号証によれば昭和六一年七月一日から昭和六二年六月三〇日までが一〇・九パーセント、第三九号証によれば昭和六二年七月一日から昭和六三年六月三〇日までが三八・二パーセントと認められるから、右譲渡価額は相続開始時に引き直して時点修正(昭和六二年七月一日まで遡ったときの価額17,950,000円÷(1+0.382×287日/366日)=13,813,005円、昭和六二年四月二〇日まで遡ったときの価額13,813,005円÷(1+0.109×72日/365日)=13,522,276円(ただし、平均地価上昇率の日割計算は、小数点以下第五位以下に切り捨て。))すると、約一三五二万二二六七円に相当するものといえる。ところで、乙第二号証、第三号証、第四号証の一、二、第七号証の一、四によれば、別表四順号20及び順号17の土地の自用地としての価額は一五五〇万三五八八円(順号17の土地一一〇万三五八八円、順号20の土地一四四〇万円)と認められるから、右売買における底地権割合は八七パーセントを越えており、前記国税局長の定めた本件貸宅地の底地権割合四〇パーセントをはるかに上回るものである。

なお、原告は収益還元方式により底地権割合を五パーセントと評価すべきであると主張するが、収益還元方式により本件貸宅地の時価を算定しようとするならば、過去の実績及び将来の推移。動向に基づき標準化された適正な純収益を用いる必要があるところ、原告が純収益とするのは、昭和六二年一月現在の本件宅地の地代の平均値にすぎず、これを基礎数値として収益還元方式により求められる底地権割合は客観的に適正なものとはいい難いし、これを五パーセントとする算定結果も、前記本件貸宅地の一部の売買実例の底地権割合からかけ離れた著しく低い数値となっており、右原告の主張は到底採用できない。

そうすると、本件貸宅地の価額をいずれも自用地の四〇パーセントとする被告城東税務署長の主張は相当ということができる。

(二) 前記2(二)記載の争点について

路線価が、毎年の売買実例、前年の路線価、接続地域の均衡、専門家の意見等を参酌して定められたものであって、地価の実態をかなり正確に反映していることは公知の事実といえる。そうすると、一般に、下水処理場等の設置の影響により付近不動産の価値が減殺されるというような事情がある場合は、このような事情も路線価の設定過程において既に参酌されているはずであるということができる。

そして、現に、乙第四〇号証によれば、本件下水処理場の南北に隣接する各路線の路線価は右下水処理場に接している地点の方が、右下水処理場から東西に遠ざかった地点の路線価より低く設定されていることが認められる。

しかも、右路線価は、次のとおり、順号21の土地につきて実際に行われた売買の価額に比すれば、極めて低額なものということができる。すなわち、乙第四一号証によれば、原告らは、昭和六二年一〇月五日、順号21の土地の一部の三三〇・六一平方メートルを総額一億一〇〇〇万円で譲渡していることが認められるのであるが、乙第四号証の一によれば、右土地は中小工場地区にあることが認められるところ、大阪市の準工業地の平均地価上昇率は、乙第三八号証によれば昭和六一年七月一日から昭和六二年六月三〇日までが一〇・七パーセント、第三九号証によれば昭和六二年七月一日から昭和六三年六月三〇日までが三四・九パーセントと認められるから、右譲渡価額は相続開始時に引き直して時点修正(昭和六二年七月一日まで遡ったときの価額110,000,000円÷(1+0.349×97日/366日)=100,686,499円、昭和六二年四月二〇日まで遡ったときの価額100,686,499円÷(1+0.107×72日/365日)=98,605,914円(ただし、平均地価上昇率の日割計算は、少数点以下第五位以下切捨て。))すると、約九八六〇万五九一四円に相当するものといえる。そうすると、右土地は、一平方メートルあたり約三三万三〇〇〇円(98,605,914円÷330.61平方メートル=298,254円)となり、乙第四号証の一により認められる順号21の宅地の路線価一一万六〇〇〇円を、はるかに上回るものである。

したがって、順号21の土地の価額の算定につき、基礎となる路線価を減殺しないことは相当といえる。

(三) 前記2(三)記載の争点について

乙第二号証によれば、評価基本通達14で、路線価の設定される路線とは、不特定多数の者の通行の用に供されている道路または水路をいうものと定められていることが認められるところ、乙第五号証の二、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、本件道路は、官有地である里道と順号10及び順号13の宅地で構成される、南北に各接する公道を結ぶ通り抜けのできる道路であり、その両側に並ぶ建物の居住者や、訪問者以外の者の通行もあることが認められ、本件道路は不特定多数の者の通行の用に供されている道路ということができる。現に、乙第二〇号証の二、三によれば、昭和六二年当時、右順号10及び順号13の両土地の公共の用に供する道路であるとして、地方税法三四八条二項五号により、固定資産税につき非課税とされていることが認められる。

なお、原告は、本件道路は評価基本通達14(3)の事項に該当しないから、路線価を設定すべき路線に該当しない旨主張するが、乙第二号証によれば、評価基本通達14は、「路線価は、路線に接する宅地で次に掲げるすべての事項に該当するものについて、売買実例価額、精通者意見価格等を基として評定した一平方メートル当たりの価額とする。」と規定して、右同条(3)を含む四事項を掲げるていることが認められ、右文言からすれば、右四事項は路線価を設定する際に路線の価額を評定する基準となる宅地の条件を示したものであって、路線価を設定すべき路線であるかどうかの条件を定めたものではないと解されるから、前記原告の主張は失当というべきである。

したがって、本件道路は、路線価を設定すべき道路に該当するものというべきであり、順号7及び順号12の宅地の評価に側方路線影響加算をするのは相当といえる。

(四) 前記2(四)記載の争点について

原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、昭和五四、五年ころ、彌一は別表四順号の9の宅地の一部にきく家屋を建て、登記簿上、これをきくの所有名義としたことが認められる。

しかしながら、このことから直ちにきく家屋敷地部分がきくに贈与されたとはいえない。かえって、乙第一〇号証、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、右家屋は税金対策上きくの所有名義とされたものであって、彌一からきくに贈与する明示の意思表示があったわけではないし、実際には、彌一もきくとともにこれに居住していたものであり、きく家屋敷地部分に至っては、これについてのみ贈与の意思表示がなされているものではないことはもちろん、順号9の宅地は、本件相続開始時まで、登記簿上、全部が彌一の所有名義のままであり、きく家屋敷地部分が分筆されて、所有名義がきくに移転されたこともなく、きくがきく家屋敷地部分について贈与税の申告書を提出した事実もないことが認められ、これらの事実からすれば、きく家屋の彌一からきくへの贈与自体、極めてあいまいなものであるが、仮に右贈与を認めるにしても、きく家屋敷地部分には、せいぜいきくの使用借権の成立が考えられるにとどまり、これがきくに贈与されたと認める余地はない。

したがって、きく家屋敷地部分は、本件相続開始まで、彌一の所有であったものというべきであるから、これを本件相続の相続財産に含めることは相当である。

(五) 前記2(五)記載の争点について

原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、昭和三〇年代後半ころ、原告は別表四順号9の宅地の一部に家屋(鴫野東三丁目一六六番、家屋番号二九〇五番)を建て、原告所有名義で登記したことが認められる。

しかしながら、原告本人尋問の結果によれば、本件相続開始時に至るまで、原告と彌一との間に、原告家屋敷地部分の利用権について何ら取決めはなされておらず、地代の授受も一切なされていないことが認められ、右事実からすれば、原告の右家屋所有による原告家屋敷地部分の占有は、使用賃借契約に基づくものというべきであって、借地権の設定があったものと認めることはできない。

ところで、相続財産である宅地上に使用借権が成立している場合の右土地の評価について触れておくに、使用貸借契約に基づく権利は、賃貸借契約に基づく権利に比し、権利性が極めて弱く、そのため、前記(一)で認定したとおり、評価基準通達でも、相続財産である宅地を評価するに当たり、これを経済的価値あるものとして、自用地の価額から控除する対象としていない。しかも、原告家屋敷地部分についての使用借権は、前記認定のとおり、父親と息子との間で設定されたものであるというのであって、このような親子間における情誼や信頼関係に基づく土地の無償使用関係について、通常の借地権と同じように、右土地の時価(交換価値)に影響を与えるような土地利用権とみて、これに経済的価値を認め、右土地の評価に当たり考慮し、したがって、自用地としての価額から右経済的価値を控除すべきであるとするのは相当でない。

以上のとおり、いずれにしても原告の主張は理由がない。

三  結論

以上のとおり、前記一1(一)(「課税価格」)(1)(「相続財産及びその価額」)〈1〉(「宅地等」)記載の被告城東税務署長の主張のうち、前記一2記載の各争点に係る部分の主張も相当であり、さらに前記一1(一)(4)(「課税価格」)及び(二)(「相続税額の計算」)記載の被告城東税務署長の主張も是認できるから、被告城東税務署長主張の相続税額を認めることができ、したがって、右税額の範囲内でなされた原処分は適法であるということができる。

第四不当利得返還請求について

前記のとおり、原告が不当利得返還請求権に基づき支払を求める一五一二万〇九〇〇円は、原告らの更正の請求(第2次)にかかる相続税の総額と原告らが審査請求において主張した相続税の総額一四九五万一一〇〇円との差額であるというのであるが、本訴においては、原告は、更正の請求(第2次)に係る三〇〇七万二〇〇〇円をもって、正しい相続税の総額であると主張しているのであって、原告らが審査請求の時点で主張したという右金額が本訴でどのような意味があるのかが主張自体からは全く明らかでないばかりでなく、前記第三において判示したとおり、被告城東税務署長のした原処分は適法であり、したがって、相続税の総額も右三〇〇七万二〇〇〇円を超えるのであるから、右不当利得返還請求は理由ない。

(裁判長裁判官 福富昌昭 裁判官 川添利賢 裁判官 大藪和男)

(別表一)

課税の経緯

〈省略〉

(別表二)

相続財産の種類別価額表

〈省略〉

(別表三)

相続財産の計算

〈省略〉

(別表四)

宅地等の評価明細

〈省略〉

(別表五)

相続財産の明細(有価証券)

〈省略〉

(別表六)

相続財産の明細(貯預金)

〈省略〉

(別表七)

3年以内の贈与加算

〈省略〉

相続関係図

〈省略〉

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